バルブの種類と用途
ソレノイドバルブとは?
簡単に言うとソレノイドとバルブを組み合わせたものです。
ソレノイド : 電磁石の原理を用いて電磁力を発生させ、直線的な動作を生み出す装置
バルブ : 流体(気体や油など)を流すか流さないか、流れの方向を切り替えるかを制御する機器
つまりソレノイドバルブとは「ソレノイドによってバルブ内の弁を開閉し、流体を制御するもの」ということになります。当ページでは、気体を使用したソレノイドバルブを例に、仕様や種類について解説します。
各ポートの役割
ソレノイドバルブには「ポート」という流体の出入り口があります。ポートは様々な種類があり、それぞれ意味があります。
基本的なポート
P:給気ポート...流体を取り込むポート
A、B:出力ポート...流体を流すポート
R(E):排気ポート...圧力を逃がすポート
特殊なポート
X:パイロットポート...弁を動かすための圧力(パイロットエア)を供給するポート
PE:パイロットEXHポート...パイロットポート用の排気ポート
ソレノイドバルブの仕様
ソレノイドバルブの仕様表を見ると下記の項目が確認できます。
ポート数 | 2ポート 3ポート 4ポート 5ポート |
切換方式 | 2位置シングル 2位置ダブル 3位置クローズドセンタ 3位置エキゾーストセンタ 3位置プレッシャセンタ |
マニュアル | ノンロックプッシュ式 プッシュターンロック式 |
それぞれの項目がなにを意味するのかひとつひとつ解説していきたいと思います。
ポートの数
ソレノイドバルブは仕様によってポートの数が異なります。ポート数によって用途も変わるため、ぜひともおさえておきたい項目です。「各ポートの役割」を確認しながらご覧ください。
2ポート:Pポート、Aポート
出力する/しないを切り替えるだけ。
3ポート:Pポート、Aポート、Rポート
2ポートタイプに排気ポートが追加。単動型のシリンダを動かせる。
シリンダのロッドを収縮させる際に、流体がソレノイドバルブ側に押し戻されます。その圧力を排気させるため、排気ポート(R)が追加されています。
4ポート:Pポート、Aポート、Bポート、Rポート
流体の出力先が2つに増えたことにより、複動型のシリンダを動かせる。
5ポート:Pポート、Aポート、Bポート、Rポート×2
A、Bそれぞれに専用の排気ポートがある。
こうしてみると、単動型と複動型のシリンダ両方を動かすことのできる4ポートと5ポートの汎用性が高そうですね。この両者の違い、改めて注目してみると、排気ポートの数にしかありません。これは「排気口をひとつのポートにまとめているか」、「ABポートそれぞれ専用の排気ポートを設けているか」の違いです。排気ポートを2つ設けている5ポートは、4ポートに比べて構造が単純なので、つくる際のコストなどが抑えられると言われています。そういった理由もあってか、5ポートのソレノイドバルブが広く普及しており、当社に入荷するソレノイドバルブもほとんどが5ポートです。
弁の開閉方式
たまにソレノイドバルブの仕様に「ノーマルオープン」、「ノーマルクローズ」と表記されているものがありますが、これは下記のような意味を持ちます。
ノーマルオープン(N.O.):非通電時は弁が開いており、通電中のみ弁を開きます。
ノーマルクローズ(N.C.):非通電時は弁が閉じており、通電中のみ弁を閉じます。
通電時にはソレノイドの力によって弁が切り替わっており、電力を遮断するとバネの力で元の位置に戻ります。また、この項目は4、5ポートのソレノイドバルブには存在しません。
弁の駆動方式
弁の駆動方式には「直道型」と「パイロット型」があります。
直動型:弁を切り替える動力が電力のみ。
パイロット型:電力だけでなく流体の圧力も利用する。パイロット型は直動型に比べて機械的機構が少ないため、サイズが小さいなどのメリットがあります。また、パイロット型には下記の2種類があります。
内部パイロット式:弁を切り換えるための圧力を給気ポートから供給。PEポートは内部パイロットに使用する空気圧を排気するためのポート。
外部パイロット式:弁を切り換えるための圧力をXポートから供給。
弁の切換方式の種類
流体の出口を切換える機構にも様々な種類があります。下記のイラストの5ポートソレノイドバルブを見本にみていきましょう。
2位置:弁が閉じている状態、流体を出力している状態の2位置。
3位置:弁が閉じている状態、流体をAへ出力している状態、流体をBへ出力している状態の3位置。
目次
シングルソレノイドバルブ
「シングル」と名のつく通り、1つのソレノイドで流体を制御するバルブです。
このバルブは常にAかBポートから出力を続けます。これがシングルソレノイドバルブにおける弁の定位置となります。ソレノイドへ電流を流すと、それまで出力されていたポートが閉じられ、逆の出力ポートからの出力に切り替わります。電流が遮断されると弁は定位置へ戻るため、元々出力されていたポートへ強制的に切り替わります。
「常に片方のポートに出力を続け、ソレノイドへ電流を流している間だけ出力先のポートが切り替わる」バルブです。
ダブルソレノイドバルブ
「ダブル」と名のつく通り、2つのソレノイドで流体を制御するバルブです。
片方のソレノイド、例えばA側へ電流を流すと、Aポートから出力、Bポート側のソレノイドへ電流を流すと弁の位置が切り替わりBポートから出力されます。一度Aポートへの出力に切り替わったら、Bポート側のソレノイドへ電流を流すまでAポートから出力し続けます。B側のソレノイドに電流を流した場合も同様に、電源を切ってもAポートへ出力が切り替わることはありません。
「Aポート・Bポートどちらに出力するのかを指定すると、その方向へ出力し続ける」バルブです。
クローズドセンタバルブ
2つのソレノイドで流体を制御するバルブです。
非通電時、このバルブはAとBポートのどちらにも出力されておらず、排気ポートも閉鎖されています。これがクローズドセンタバルにおける弁の定位置となります。Aポート側のソレノイドへ電流を流している間だけはAポートから、Bポート側のソレノイドへ電流を流している間だけはBポートから出力されます。ただし、ソレノイドに電流を流さない限りは出力・排気がされないため、接続したシリンダのロッドを手で動かすことはできません。
「ソレノイドに電流を流している間だけ出力し、電流を流さない間は排気もされない」バルブです。ただ、停止させたまま長時間放置しておくと、シリンダから徐々にエアーが漏れ、ロッドが動いてしまうことがあります。
エキゾーストセンタバルブ
2つのソレノイドで流体を制御するバルブです。
非通電時、このバルブはA、Bポートのどちらからも出力されていません。ここまではクローズドセンタバルブと同じですが、エキゾーストセンタバルブの場合は排気ポートが開放されています。それにより、もし駆動中に電源を切ってしまった場合でも、接続したシリンダのロッドを手で動かすことができます。
「ソレノイドに電流を流している間だけその方向へ出力し、電流を流さなくてもシリンダのロッドを手で動かせる」バルブです。縦方向のワークに使用すると、その重さによってはシリンダが勝手に下へ落ちてしまうことがあります。
プレッシャセンタバルブ
2つのソレノイドで流体を制御するバルブです。
常にA、Bポートの両方から出力しており、排気ポートは閉鎖されています。これがプレッシャセンタバルブにおける弁の定位置となります。例えばAポート側のソレノイドへ電流を流すと、Bポート側の出力が止まります。
「ソレノイドに電流を流している間だけ、そのソレノイドと逆側のポートの出力が停止する」バルブです。ロッドを有したシリンダに接続すると、非通電時にロッドが強制的に押し出されてしまうという性質があります。
真空エジェクタ
真空エジェクタは空圧専用で、正確には真空発生器に分類される機器です。しかし、その動作の切り替えにはソレノイドが使われており、ソレノイドバルブと同じように使用することができます。
給気ポートにエアーを接続した状態で供給弁のソレノイドに電流を流すと、真空ポートから真空が発生します。破壊弁のソレノイドに電流を流すと、逆に真空ポートからエアーが出力されます。吸着パッドを使用すれば、動画のように供給弁ONで物を持ち上げて移動、破壊弁ONで物を落とすといった搬送にも活用することができます。なお、重量がある物だと自重で落ちてしまうため、基本的には軽い物の搬送で使用されます。
「バルブと同じ使い方ができる真空発生器」です。
マニュアル(手動操作)
ソレノイドバルブには小さなボタンやツマミが付いているものがあります。これはソレノイドではなく手動で流体の制御が行えるものです。
ソレノイドバルブと停電
ここまで仕様について解説してきましたが、最後にもうひとつ、ソレノイドバルブを使用する上で重要なことがあります。それが駆動中の停電についてです。
ソレノイドバルブは電力によって流体の出力を制御していますが、電力が遮断されたときの挙動はそれぞれのバルブで異なります。シリンダを2つ使った装置を例に、シングルソレノイドバルブとダブルソレノイドバルブの停電時の動作を見ていきましょう。
下の動画は、縦横に交差させた2つのシリンダを2つのシングルソレノイドバルブで駆動させている様子です。
シングルソレノイドバルブは電気を流している間のみ出力ポートが切り替わるため、停電すると強制的にポートが切り替わり、シリンダは初期の位置へ戻ります。しかしこれでは、例えば縦方向のシリンダにドリルを取付けていた場合、加工中に停電するとドリルが加工物などに当たり折れてしまいます。
それを避けるため、横方向のシリンダだけをダブルソレノイドバルブによる駆動に変更します。
縦方向のシリンダにはシングルソレノイドバルブを使用しているため、停電すると自動的に元の位置に戻りますが、横方向のシリンダにはダブルソレノイドバルブを使用しているため、停電してもその位置で停止したままです。
これでもし縦方向のシリンダにドリルを取付けていた場合でも、ドリルを折ってしまわずに済みます。このように、ソレノイドバルブはその種類だけではなく、複数の種類を組み合わせることによっても装置の動作が変わってきます。もし、上の装置を両方ダブルソレノイドバルブにしてしまうと、今度は停電している間は加工物を取り出すことができなくなってしまいます。
ソレノイドバルブに限ったことではありませんが、製品の特性をよく理解することで見えてくる長所があります。その長所を生かすことでものづくりの環境も大きく変わるかもしれませんね。